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はじめに:あなたの「冒険の書」も、実はすごいデータなんです

あの有名なテーマ曲が流れると、私たちの心は一瞬で冒険の世界へ旅立ちます。そして目の前には、これから始まる旅の記録を書き込むための、まっさらな「冒険の書」が。
でも、もしこの「冒険の書」が、ただの旅日記ではなく、ものすごい量の「データ」の集まりだとしたら、どうでしょう?「スライムを たおした」「ゆうしゃは ホイミを となえた」「ほのおのつるぎを 9800ゴールドで てにいれた」1。これら一つひとつの出来事は、すべてが記録され、分析できる、とても大切なデータなのです。
この記事では、みんなが大好きなゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの長い歴史を、データ分析の専門家の視点からのぞいてみます。初代ファミコン版の小さなデータ容量から始まった冒険は 3、今ではたくさんの人が集まるオンラインの世界にまで広がりました。この壮大な物語に眠っているデータを、Tableau(タブロー)のような、まるで「現代の魔法」ともいえる分析ツールを使って、グラフなどで分かりやすく見ていきましょう 4。これはただ昔を懐かしむだけの旅ではありません。ドラクエという伝説のゲームを形作ってきた、お金の動きや、ゲームデザインの秘密を解き明かす、新しい冒険です。
思えば、初代ドラゴンクエストの「ふっかつのじゅもん」は、私たちが初めてデータ管理というものに触れた瞬間だったかもしれません 6。あの長くて不思議な文字列は、レベルや強さ、持ち物といったプレイヤーの情報を保存した「暗号化されたデータ」そのものでした。昔は必死で紙に書き写していましたが、今ではリアルタイムで情報が更新される便利なグラフやレポートがあります 7。さあ、進化した道具を使って、冒険の書に隠されたもう一つの物語を読み解いていきましょう。
アレフガルドの国勢調査? シリーズの売上から見る「ドラクエ」という巨大市場
まずは、とても大きな視点から「ドラゴンクエスト」という市場を見てみましょう。シリーズのナンバリングタイトルが国内でどれだけ売れたかをグラフにしてみると、何十年にもわたる人気ぶりが一目でわかります。
データを見ると、『ドラゴンクエストIII』が380万本、『VII』が417万本、そして『IX』が437万本と、信じられないような記録を打ち立てています 9。これらの売上本数を、それぞれのゲーム機(ファミコン、スーパーファミコン、プレステ、DSなど)と一緒に見てみると、大ヒットした作品とその時代に一番人気だったゲーム機との間に、強いつながりがあることが見えてきます 10。例えば、『VII』がプレステで、『IX』がニンテンドーDSで大ヒットしたのは、どちらもその時代にみんなが持っていたゲーム機で発売されたから、と考えることができます。シリーズ全部を合わせると、世界で8,500万本以上も売れているのですから 11、ドラクエは単なるゲームではなく、一つの大きな経済を作り出していると言えます。『VII』が発売された時には、その経済効果は500億円にもなると計算されたほどです 10。
この売上のデータからは、さらに面白い戦略が見えてきます。一つは、「リメイク」という、データに基づいた賢いビジネス戦略です。例えば、『ドラゴンクエストIV』はファミコン版で304万本を売り上げた後、プレステ版で122万本、ニンテンドーDS版で128万本と、リメイク作品も大ヒットを連発しています 9。これは偶然ではありません。まず、オリジナル版が300万本も売れたという確かなデータがあります。これは、それだけ多くの人が欲しがっている市場がある、という証明です。この過去のデータがあれば、リメイク版がどれくらい売れるかを予測できます。さらに、ゲーム機を変えることで、昔遊んだ世代だけでなく、新しい世代の子どもたちにも遊んでもらえます。DSでのリメイクが成功したのは、当時大人気だった携帯ゲーム機で、昔からのファンと新しいファンの両方を掴むことができたからです。このように、リメイク作品が安定して成功しているのは、過去の成功データを元に、新しいプラットフォームで商品を展開し、長い目で見て利益を最大化するという、データに基づいた戦略の表れなのです。
もう一つは、どのゲーム機で発売するかが「記録的な大ヒット」を生み出す決め手になっている、という点です。シリーズで最も売れた『VII』(約417万本)と『IX』(約437万本)は、それぞれプレステとニンテンドーDSという、その時代を代表するゲーム機で発売されました 9。これは、他の人気作と比べても特別なことです。もちろんゲームの面白さが一番大切ですが、歴史に残る大ヒット作が生まれるには、「最高のゲーム内容」と「みんなが持っている大人気ゲーム機」という二つの条件がそろう必要があった、ということがデータから読み取れます。
伝説の武器と最強呪文のインフレ:武器や呪文は、どれだけ強くなった?

次に、ドラクエの世界の中での経済やパワーバランスがどう変わってきたかを見ていきましょう。シリーズが進むにつれて、武器の攻撃力や呪文のダメージ、アイテムの値段がどんどん上がっていく傾向があります。これは、現実の世界で物価が上がっていくインフレと少し似ていて、面白い比較ができます。
まず、武器の攻撃力です。「ロトのつるぎ」の攻撃力が40だった初代に対し 13、『II』の「はかいのつるぎ」は105~110 13、『III』の「おうじゃのけん」は120 15、そして『IX』の「ぎんがのつるぎ」は180、『XI』の「ひかりの大剣」はなんと353にまで達しています 15。グラフにすると、急な右肩上がりの線が描けます。
ゲームの中のお金の価値も変わっています。お店で買える一番高い武器の値段を見ると、『I』の「ほのおのつるぎ」が9,800ゴールド 1、『II』の「ひかりのけん」が16,000ゴールド 1、そしてリメイク版『III』の「らいじんのけん」は65,000ゴールドという、びっくりするような値段で売られています 1。これは、ゲームの中でお金の価値が下がっている、つまりインフレが起きていることを示しています。
呪文の威力も同じです。シリーズを代表する呪文「イオナズン」を例にとると、『II』では約80ダメージだったのが 17、『III』では120~160ダメージへとパワーアップしています 18。後の作品ではキャラクターの強さが威力に関係してくるので、与えられるダメージはさらに大きくなります 19。敵一体に大ダメージを与える「メラゾーマ」も、最初の頃の92~128ダメージという範囲から、シリーズを重ねるごとに強くなっています 21。
| シリーズ | ゲーム機 | 平均ダメージ | 消費MP |
| ドラゴンクエストIII | FC | 92~128 | 12 |
| ドラゴンクエストIV | FC | 92~128 | 10 |
| ドラゴンクエストV | SFC | 92~128 | 10 |
| ドラゴンクエストVI | SFC | 120~140 | 10 |
| ドラゴンクエストVII | PS | 120~140 | 10 |
| ドラゴンクエストVIII | PS2 | 96~112 | 10 |
| ドラゴンクエストIX | DS | 104~128 | 10 |
表1: 歴代『メラゾーマ』の強さと消費MPの変化。データは主に 21 を参考にしています。
このように数値がどんどん上がっていく「パワーインフレ」は、ただの間違いではなく、プレイヤーがゲームを楽しく続けるための、計算されたデザインだと考えられます。もし『V』の最強武器の攻撃力が『IV』と同じだったら、新しい武器を手に入れた時のワクワク感は少なくなってしまいますよね。前の作品の最強武器が、次の作品では中盤くらいの強さに感じられるからこそ、プレイヤーは新しい成長の喜びを味わえるのです。また、このインフレは技術の進歩とも関係しています。ゲームのデータ容量がカセットからCDへと大きくなるにつれて、より長くて複雑な冒険が描けるようになりました 3。それに合わせて、キャラクターもより長く成長できるようにする必要があり、結果としてステータスの数字自体を大きくする必要があったのです。つまり、このパワーインフレは、プレイヤーを飽きさせず、どんどん壮大になるシリーズの世界観を管理するための、巧みなデザイン手法なのです。
魔王たちの体力測定:ラスボスのHPはどれだけ増えた?
パワーインフレが一番分かりやすく表れているのが、シリーズのラスボスが持つHP(ヒットポイント)です。これは、ビジネスの世界で会社の重要な数字が時間と共にどう変化するかを追いかけるのと、とてもよく似ています。
| シリーズ | ラスボス名 | ゲーム機 | 最終形態のHP |
| ドラゴンクエストI | りゅうおう | FC | 約260 |
| ドラゴンクエストII | シドー | FC | 約1,750 |
| ドラゴンクエストIII | ゾーマ | FC | 約4,800 |
| ドラゴンクエストIV | デスピサロ | FC | 約4,700 |
| ドラゴンクエストV | ミルドラース | SFC | 約6,700 |
| ドラゴンクエストVI | デスタムーア | SFC | 約6,300 |
| ドラゴンクエストVII | オルゴ・デミーラ | PS | 約9,500 |
| ドラゴンクエストVIII | ラプソーン | PS2 | 約4,900 |
| ドラゴンクエストIX | エルギオス | DS | 約9,000 |
| ドラゴンクエストXI | ニズゼルファ | PS4/Switch | 約16,000 |
表2: 歴代ラスボスのHP比較。HPは最終形態の代表的な数字です。
上の表を見るとわかるように、初代『I』のりゅうおうのHPが数百だったのに対し、シリーズが進むにつれて数千、そして1万を超えるレベルへと、ものすごい勢いで増えています 23。このHPの劇的な増加は、ゲーム機の性能アップとゲームデザインの複雑化をそのまま映し出しています。
この関係を理解するには、昔のゲーム機の限界を考える必要があります。初代のファミコン版は、わずか64KBという、今のスマホの写真1枚分にも満たないデータ容量で作られました 3。りゅうおうのHPは、この限られたデータの中でプレイヤーが倒せる範囲に設定しなければならず、戦闘が長くなりすぎることは許されませんでした。一方、CD-ROMを使ったプレステで発売された『VII』では、データ容量が約700MBと飛躍的に増え、プレイヤーが使える技やアイテムもずっと多く、複雑になりました。その結果、ラスボスのオルゴ・デミーラは、強くなったプレイヤーの攻撃に耐えられるように、はるかに高いHPを持つことができたのです。戦闘も、何度も変身するような長期戦のデザインが可能になりました。つまり、ラスボスのHPは、ゲーム機の性能と、それによって可能になるゲームデザインの複雑さによって決まる、と言えるのです。
アストルティアの人口調査:オンライン版ドラクエのプレイヤーデータが面白い!
これまではゲーム開発者が決めたデータを見てきましたが、今度はプレイヤー自身が生み出すデータに注目してみましょう。オンラインゲームである『ドラゴンクエストX』では、運営チームが定期的に「国勢調査」としてプレイヤーのデータを公開しています。これは、お客さんをグループ分けしたり、どんな行動をしているか分析したりする、現代のデータ分析を体験する絶好の機会です。
まず面白いのが、プレイヤーが使うキャラクターの男女比の変化です。サービス開始から時間が経つにつれて女性キャラクターの割合が増えてきており、最近では6割近くが女性キャラクターになっています 26。また、エルフやウェディといった種族ごとの人気ランキングも公開されており、プレイヤーの好みがわかって興味深いです 26。
さらに面白いのが、どのモンスターがたくさん倒されているかのランキングです 26。「モーモン・強」や「スライムナイト・強」といった特定のモンスターが、なぜいつも上位にいるのでしょうか。これは決して偶然ではありません。プレイヤーがはっきりとした目的を持って行動した結果なのです。
このモンスター討伐ランキングは、ゲームの中での「効率の良さ」を示すヒントと見ることができます。プレイヤーがモンスターを倒す主な理由は、経験値やゴールド、アイテムを手に入れるためです。たくさん倒されているモンスターは、かけた手間に対して、もらえる見返りが一番大きい存在のはずです。具体的には、たくさん出現して、比較的簡単に素早く倒せて、経験値やゴールドがたくさんもらえたり、価値の高いアイテムを落としたりする、といった特徴があると考えられます。これは、何万人ものプレイヤーが一番効率の良い方法を探し続けた結果であり、そのデータはゲーム内で一番おいしい「狩場」がどこかを示す地図のようになります。ゲーム開発者はこのデータを分析することで、ゲームバランスが偏っていないかを確認できます。もし特定のモンスターだけが異常に狩られている場合、そのモンスターの報酬が良すぎるか、他のモンスターの報酬が悪すぎるのかもしれません。
また、プレイヤーのキャラクターの男女比が変わっていくのも、ゲームの中と外の両方の理由を反映しています。『DQX』で女性キャラクターの割合が増えているのは 26、ゲーム市場全体で女性プレイヤーが増えていることや、ゲーム内の特定の装備やストーリーが、女性キャラクターを選ぶ人にとって魅力的だからかもしれません。「仮装メイク道具」というアイテムのデータを見ると、一時的に他の種族に変身するときに、一番人気なのが「エルフの女」だということがわかります 27。これは、このキャラクターの見た目がとても人気だという証拠です。このようなデータは、今後のゲーム開発にとって非常に強力なヒントになります。プレイヤーがどんな人たちで、どんなものが好きなのかを深く理解することで、開発者はもっと魅力的なコンテンツを作ることができるのです。
冒険は現実世界へ!:『ドラゴンクエストウォーク』が示した位置情報データのすごい活用法

最後に、ドラクエの楽しさが、現実の世界で測れるビジネスの成果に直接つながった、最高の事例を紹介します。それは、位置情報ゲーム『ドラゴンクエストウォーク』と日本のお城がコラボしたイベントで、どれだけの効果があったかを分析した例です 28。これは、データ分析サービスがどれだけ役に立つかを具体的に示す、とても分かりやすい話です。
この分析の目的は、イベントが小田原城や名古屋城、姫路城といった観光地に、どれだけ多くの人を呼び込んだかを測ることでした。そのやり方は、まさにデータ分析プロジェクトそのものです。まず、お城の周りを分析エリアとして設定。次に、イベント期間中と、前の年の同じ期間を比較対象としました。そして一番重要なのが、分析する人を「20~40代の男性」で、かつ「その街に住んでいない人(観光客)」に絞ったことです。こうすることで、イベントが純粋にどれだけの集客効果があったかを正確に知ることができます 28。
結果は、場所によって大きく違いました。名古屋城では訪れる人が大幅に増え、特に20代の男性は42%増という驚異的な伸びを見せました。小田原城でもはっきりとした増加が見られましたが、こちらは40代の増加率が比較的高かったです。一方で、姫路城では訪れる人は少し増えただけでした 28。
この事例が教えてくれるのは、データをグループに分けて見ること(セグメント化)の大切さです。キャンペーン全体としては「成功」でも、場所や年齢層によって効果は大きく違っていました。もし「お客さんは増えたか?」という単純な質問だけで終わっていたら、このキャンペーンの面白い側面を見逃していたでしょう。なぜ名古屋城は若者を中心に大成功し、姫路城では効果が少なかったのか。データは次の疑問を私たちに投げかけます。名古屋城は都会の若者にとって行きやすかったのか?ゲーム内のイベント内容に違いがあったのか?現地の宣伝活動に差があったのか?このように、データを年齢や地域で分けて分析することで、誰が、いつ来て、キャンペーンがどこで一番効果的だったのかを深く理解できます。これは、将来のマーケティング活動で、より賢くお金や人を使うためのヒントになります。これこそが、データ分析が提供する本当の価値なのです。
終わりに:「ふっかつのじゅもん」から、魔法の分析ツールへ
この記事で巡ってきた分析の旅は、一つの結論にたどり着きます。それは、データがいつもドラゴンクエストの中心にあり続けてきた、という事実です。
初代の「ふっかつのじゅもん」を、現代の分析ツールと改めて比べてみましょう 6。昔の呪文は、一度書いたら変わらない、書き間違えたら消えてしまう、一方通行のデータでした。一方で、Tableauなどで作られる現代の分析ツールは、いつでも変わり、頑丈で、色々な角度からデータを見ることができます 4。それは単に状態を保存するだけでなく、データに対して「なぜ?」と質問することを可能にします。「職業」で絞り込んだり、「武器の種類」で詳しく見たり、「時間」の流れに沿った変化をグラフにしたりできるのです 7。
このような分析ができるのは、ゲームの中のデータが、実はきれいに整理整頓されているからです。例えば、「モンスター」というデータと、「倒した時に落とすアイテム」というデータは、きちんと関連付けられています 30。つまり、「1種類のモンスターが、複数のアイテムを落とす可能性がある」という関係が、データの構造として決められているのです。このように整理されたデータがあるからこそ、高度な分析が可能になります。
勇者の旅が、知恵と経験を積み重ねてラスボスを倒す物語であるように、現代のビジネスもまた、データからヒントを得て市場の課題を乗り越えていく物語です。武器は剣や魔法から、グラフや分析ツールへと姿を変えましたが、知識を求め、より良い未来を切り拓こうとする冒険の本質は、今も昔もまったく変わらないのです。
引用文献